ブランタス川

ブランタス川
クディリを流れるブランタス川(2014年7月22日撮影)
延長 320 km
流域面積 12,000 km²
水源 クルド山スメル山
流路 マラン、トルンガグン(英語版)クディリクルトソノ(インドネシア語版)、プロッソ (Ploso)、モジョケルトスラバヤ
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ブランタス川: Brantas River)はインドネシア東ジャワ州の河川。カリブランタス川と表記する文献もある[1][注釈 1]

概要

長さは320キロメートルであり東ジャワ州最長[2]。流域面積は1万2000平方キロメートル[3]クルド山を取り囲むように流れており、マラン、トルンガグン(英語版)[注釈 2]クディリクルトソノ(インドネシア語版)、プロッソ、モジョケルトを経てスラバヤへと流れる[5]。モジョケルトの東にはレンコンダム(ニューレンコンダム)があり、ダムから先はスラバヤ川(英語版)ポロン川(英語版)に分かれてマドラ海峡(インドネシア語版)へと注いでいる[4]。クディリからモジョケルトの間には蛇行する旧河道の痕跡があり、ウィダス川(英語版)まで続いている[4]。また、主な支流にはレスチ川[注釈 3]、プチ川、バダック川、ヌゴボー川、コント川があり、レスチ川はスメル山、それ以外はクルド山から流れている[5]。流域にはクルド山とスメル山など火山が点在する[3]。上流域の火山山麓を流れる支流の中には、乾季に流水が途絶えるものもある[4]

上流には多目的ダム群が建設されており、ロドヨダム、ウリンギダム、スタミダム、スングルダムなどがある[3]。東ジャワにおける水資源として、灌漑、水道水、工業用水、水力発電などに利用されている[3]。周辺では稲作を中心に農業が営まれており、穀倉地帯となっている[2]。ブランタス川流域での水田開発には長い歴史があり、12世紀には既にブランタス川水系や地下水を利用した灌漑農業が行われていた[6]。トルンガグン地域は元々は沼沢地だったが、1970年代に排水事業が行われて水田として利用されるようになった[7]。一方、畑地の開発は20世紀に急速に進められており、耕地造成から土壌侵食が進む火山地域もある[6]

流域の地形

上流域には火山があり、アルジュノ山(英語版)、アンジャスモノ山、カウィ山のように浸食期に入って開析が進んでいるものと、クルド山スメル山のような活火山がある[8]。また、火山にある谷は溶岩流ラハールで埋められ、山麓には3段の段丘が形成されており、狭い谷底平野では棚田を利用した稲作が行われている[9]。平野部では熱帯カルスト地形の見られる石灰岩台地から沖積平野へと流れる[7]。クィデリからモジョケルトまでの間ではよく発達した自然堤防が見られ、ブランタス川の中下流は1970年までは天井川だった[7]。明確な扇状地はなく、モジョケルトより海側のデルタでは低い自然堤防、後背湿地ラグーンなどが見られる[10]

事業

1985年のブランタス川流域での排水トンネル事業以来[11]日本はブランタス川流域での水資源管理計画を支援しており[2]、ブランタス川は日本の国際協力における河川事業の代表例とされている[12]。当時、排水トンネルの工事などを担当した企業は日本工営[注釈 4][2]。ブランタス川流域では日本円換算で2000億円を超える事業が行われ、その内約750億円は借款などによる日本からの資金提供だった[12]。これにより洪水の被害軽減、240メガワット分の水力発電、灌漑施設の整備による米の単位収量増加とそれによる食料自給率の改善などの成果が得られた[12]

脚注

注釈

  1. ^ この論文では特に断りなく「カリブランタス川」表記と「ブランタス川」表記を併用しており、また分流のポロン川とスラバヤ川についても「カリ」をつけた表記とつけない表記が混在している。
  2. ^ アルファベット表記は「Tulungagung」であり、「ツルガグン」と表記する出典もある[4]
  3. ^ レステ川とする出典もある[4]
  4. ^ 2014年時点でも国際協力機構 (JICA) によるブランタス川・ムシ川流域での気候変動の影響調査プロジェクトに関与しており、プロジェクトの水資源管理計画のプロジェクトリーダーは日本工営の人物である。

出典

  1. ^ 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992.
  2. ^ a b c d 西村百合恵 (2014年5月21日). “気候変動で災害増加も 河川流域への影響調査 東ジャワとスマトラ島 JICA (2014年05月21日)”. じゃかるた新聞. http://jakartashimbun.com/free/detail/18072.html 2017年11月1日閲覧。 
  3. ^ a b c d 藤田正治, 里深好文 & 江頭進治 2006, p. 1003.
  4. ^ a b c d e 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, p. 91.
  5. ^ a b 藤田正治, 里深好文 & 江頭進治 2006, p. 1004.
  6. ^ a b 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, p. 93.
  7. ^ a b c 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, p. 96.
  8. ^ 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, pp. 94、95.
  9. ^ 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, pp. 95, 96.
  10. ^ 春山成子, 大矢雅彦 & 水原嘉男 1992, p. 98.
  11. ^ 石渡幹夫, 大井英臣 & 三牧純子, p. 12.
  12. ^ a b c 石渡幹夫, 大井英臣 & 三牧純子 2013, p. 12.

参考文献

  • 春山成子、大矢雅彦、水原嘉男「活火山地域の河川の開発・保全 東部ジャワ, カリブランタス流域を例として」『地学雑誌』第101巻第2号、東京地学協会、1992年、89-106頁、doi:10.5026/jgeography.101.2_89、2017年11月2日閲覧 
  • 藤田正治、里深好文、江頭進治「クルド火山噴火後のブランタス川における河床変動および河床材料の変化特性」『水工学論文集』第50巻、土木学会、2006年、1003-1008頁、doi:10.2208/prohe.50.1003、2017年11月1日閲覧 
  • 石渡幹夫、大井英臣、三牧純子「河川分野における国際協力のあり方―歴史的な変遷と課題、今後の方向性」『河川技術論文集』第19巻、土木学会、2013年、11-16頁、2017年11月1日閲覧 

関連資料

  • 日本工営、コーエイ総合研究所『インドネシア・ブランタス河の開発−技術と人々の交流』山海堂、1997年。 

外部リンク

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