筋弛緩剤

この記事の項目名には以下のような表記揺れがあります。
  • きんしかんざい
  • きんちかんざい

筋弛緩剤(きんしかんざい)、筋弛緩薬(きんしかんやく)は、神経細胞膜などに作用して、筋肉の動きを弱める医薬品である。主として、気管挿管や、全身麻酔下の手術時に用いられる。神経筋接合部に作用するものは神経筋遮断薬とも呼ばれ、作用機序から、脱分極性と非脱分極性に大別される。日本では、非脱分極性筋弛緩薬のロクロニウムが頻用されている。かつては、医師達に読み方として「きんちかんざい」と呼び習わされることが多かったとされる[1]

概要

筋肉による不随意運動や緊張が、なんらかの症状を生み出している場合や、医学的な処置を妨害してしまう場合に投与される。現代の全身麻酔下の手術においては、不可欠の薬剤である。

日本では筋弛緩剤点滴事件の影響で広く一般に知られるところとなったため、毒物のイメージが先行している。実際、医師によって正しく用いられない場合、呼吸不全死亡してしまうので、筋弛緩薬は毒薬として取り扱われている。

天然の筋弛緩をもたらす薬物として、フグ毒であるテトロドトキシンや、ボツリヌス菌の毒素ボツリヌストキシンが知られており、これらの中毒を放置すると呼吸不全によって死亡することがある。d-ツボクラリンは「クラーレ」とも呼ばれる非脱分極性筋弛緩薬であるが、狩猟に使う毒矢に塗る成分として使われた。

主な筋弛緩薬

スキサメトニウム 2%注射液
スクシニルコリン[2]あるいはスキサメトニウム
即効性かつ数分で回復する脱分極性筋弛緩薬であり、精神科電気痙攣療法の際の筋弛緩などにも適応となる。
ベクロニウムパンクロニウムロクロニウム
神経筋接合部(NMJ)におけるアセチルコリン受容体を遮断する、非脱分極性筋弛緩薬。
A型ボツリヌス毒素
神経筋接合部において、神経末端からのアセチルコリン放出を遮断する。眼瞼痙攣ジストニアなどに適応がある。
ダントロレンナトリウム
横行小管から筋小胞体への興奮の伝達過程を遮断し、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出を抑制する。悪性高熱症悪性症候群の治療に使われる。
バクロフェン
中枢性筋弛緩薬。γ-アミノ酪酸(GABA)に作用する。GABAB 受容体に選択性が高い。
芍薬甘草湯
漢方薬。「腓返り」にしばしば処方される。

鎮痙薬

臨床使用

チザニジンのような筋弛緩薬は、緊張性頭痛の治療に処方されている[3]カリソプロドールは、高齢者、妊娠中の女性、うつ病に苦しむ人々、薬物やアルコール中毒歴がある人には推奨されない[4]

作用

中枢神経の抑制を増強するために、多くの鎮痙薬は鎮静・眠気の副作用がある。それは長期使用で依存を起こす。これらのいくつかの薬物は乱用リスクがあるため、それらの処方は厳密に規制されている[5][6][7]

ジアゼパムなどのベンゾジアゼピンは、中枢神経のGABA受容体に作用する。それはどのような筋肉痙攣症状の患者にも使用でき、緊張を軽減する量でほとんどの人に鎮静効果がある[8]

適応

  • 全身麻酔導入時や手術時の筋弛緩
    • 気管挿管時の使用
    • 筋緊張が術野確保の障害となる場合の筋弛緩
    • 手術侵襲による反射的筋収縮の抑制
  • 骨折の非観血的整復の際の筋弛緩
  • ジストニアなどの不随意運動の抑制
  • 痙攣の抑制
  • 頸肩腕症候群、腰痛症
  • 痙性麻痺

関連項目

出典

[脚注の使い方]
  1. ^ 『麻酔の科学:手術を支える力持ち』諏訪邦夫、講談社、東京、2010年、136頁。ISBN 978-4-06-257686-4。OCLC 703487109。https://www.worldcat.org/oclc/703487109 
  2. ^ : succinyl choline chloride、SCC
  3. ^ “Tension Headache”. 2010年7月9日閲覧。
  4. ^ “Muscle Relaxants”. 2010年7月9日閲覧。
  5. ^ Rang, H.P. & Dale, M. M "Drugs Used in Treating Motor Disorders" in, "Pharmacology 2nd Edition" Published by Churchill Livingston London, 1991, p.684-705.
  6. ^ Standaert, D.G. & Young, A. B "Treatment Of Central Nervous System Degerative Disorders" in, "Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics 10th Edition" by Hardman, J.G. & Limbird, L.E. Published by McGraw Hill, 2001, p.550-568.
  7. ^ Charney, D.S., Mihic, J. & Harris, R.A. "Hypnotics and Sedatives" in, "Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics 10th Edition" by Hardman, J.G. & Limbird, L.E. Published by McGraw Hill, 2001, p.399-427.
  8. ^ Miller, R.D. "Skeletal Muscle Relaxants," in, "Basic & Clinical Pharmacology: Seventh Edition," by Bertram G. Katzung. Published by Appleton & Lange, 1998, p.434-449. ISBN 0-8385-0565-1
筋弛緩薬 (M03(英語版))
末梢作用型
(主に ニコチン受容体拮抗薬,
神経筋遮断薬)
非脱分極性
( アミノステロイド,
ベンジルイソキノリン(英語版))
クラーレ アルカロイド
  • アルクロニウム(英語版)
  • ジメチルツボクラリン(英語版)
  • D-ツボクラリン
4級アンモニウム
  • 超短時間作用性: ガンタクリウム(英語版)
  • 短時間作用性: ラパクロニウム(英語版)
  • ミバクリウム(英語版)
  • カンドクロニウム(英語版)
  • 長時間作用性: Doxacurium chloride(英語版)
  • ジメチルツボクラリン(英語版)
  • パンクロニウム
  • ピペクロニウム(英語版)
  • ラウデキシウム(英語版)
  • ガラミン
  • 未分類: ヘキサフルロニウム(英語版)
脱分極性
  • ポリアルキレン誘導体: ヘキサメトニウム(英語版)
アセチルコリン放出阻害薬
中枢作用型
カルバミン酸エステル
  • カリソプロドール
  • シクラルバメート(英語版)
  • ジフェバルバメート(英語版)
  • フェバルバメート(英語版)
  • メプロバメート
  • フェンプロバメート(英語版)
  • スティラメート(英語版)
  • チバメート(英語版)
ベンゾジアゼピン
非ベンゾジアゼピン系
チエノジアゼピン系
キナゾリン
  • メタカロン(英語版)
抗コリン薬
(ムスカリン受容体拮抗薬)
その他
直接作用型
消化器/代謝A
血液、血液生成器官(B
循環器系C
皮膚D
泌尿生殖器系G
内分泌器H
感染JPQI
悪性腫瘍L01-L02
免疫系L03-L04
筋肉関節M
神経N
呼吸器R
感覚器S
その他ATC(V
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