限りなき前進

限りなき前進
滝花久子(左)と轟夕起子(右)
監督 内田吐夢
脚本 八木保太郎
原作 小津安二郎
出演者 小杉勇
音楽 山田栄一
撮影 碧川道夫
公開 日本の旗1937年11月3日
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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限りなき前進』(かぎりなきぜんしん)は、1937年11月3日に公開された内田吐夢監督、小杉勇主演の日本映画。製作は日活多摩川撮影所。小津安二郎が原作を執筆したこの作品は、勤務する会社のリストラ(定年制の実施)によって主人公が精神に異状をきたすという深刻な物語を喜劇タッチで描くという異色作で、淀川長治など熱狂的なファンの支持を得ていることでも知られる。元の上映時間は99分となっているが、オリジナル版が消失したために現存するバージョン(フィルムセンター収蔵版)は60分を切る不完全なものである。

スタッフ

キャスト

あらすじ

戦前の東京。ある会社に25年間勤続する男・徳丸が定年解雇を言い渡される。逆に昇進すると信じて疑わず家まで新築していた徳丸は、生活の基盤を一挙に失い絶望する。

絶望の淵をさまよううち、いつしか徳丸は自分が部長に昇進した妄想にとらわれて発狂し、幻想と現実の区別がつかなくなって出社して、同僚や家族を困らせるようになる。

オリジナル版消失

終戦後、内田が満州に残留している間に、GHQの検閲を受けない現代劇ということで『限りなき前進』がリバイバル公開されたが、その際、オリジナルのネガに手を加えてラストをハッピーエンドにするという改変が行われた。GHQの方針によるものとも、出演者の意向によるものとも言われているが、改変の経緯は不明である。1954年に帰国した内田は改変の報を聞くと激怒し、再度オリジナルの状態に戻そうとしたがネガもプリントも発見できず、非常手段として改変版で自分の意に沿わない部分を大幅にカットし、そこに本来あったシーンの解説字幕を入れるという未完全版を作成することになった。現存している東京国立近代美術館フィルムセンター収蔵版がこの未完全版であり、現実と妄想の区別がつかなくなった主人公が会社の同僚を招いて宴会をやっている料亭に、娘とその恋人が迎えに来る廊下のカット以降エンディングまでが全てカットされている。内田のトーキー以降の代表作では他に『土』(1939年)が未完全版として現存しているが、こちらは終戦後満州に侵攻したソ連軍が戦利品として持ち去ったプリントが何らかの事情でカットされた後、1960年代東ドイツで発見されるという経緯があり、『限りなき前進』とは状況が異なっている。『限りなき前進』については、最近でも完全版の探索が細々と続けられている。

エピソード

  • この作品は、後の日本映画では頻繁に見受けられるようになるスポンサー企業とのタイアップ戦略の初期形を見ることができる。この作品の場合は森永製菓であり、轟夕起子が川の岸辺にしゃがみこみ森永ミルクチョコレート(最近復刻販売されたパッケージとほぼ同じデザイン)を食べ、紙パッケージの裏に印刷されている占いを読むという、今となっては貴重な場面である。
  • この作品が若い観客にも知られるようになったのは、淀川長治の力によるものが大きい。1970年代に淀川長治がTBSラジオで受け持っていた『淀川長治私の映画の部屋』で、日本映画の名作として全編のストーリーを語りおろしている。現存しないラストシーンも臨場感たっぷりに語っていて、淀川の語りの中でも一、二を争うものとなっている。なお、淀川はキネマ旬報社の日本映画史上ベストテンや蓮実重彦山田宏一との対談集『映画千夜一夜』巻末のベスト100でも、『限りなき前進』を挙げている。
内田吐夢監督作品
戦前
1950年代
1960年代
1970年代
  • 真剣勝負(1971)
キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・ワン
1920年代
1930年代
1940年代
1950年代
  • また逢う日まで(1950)
  • 麦秋(1951)
  • 生きる(1952)
  • にごりえ(1953)
  • 二十四の瞳(1954)
  • 浮雲(1955)
  • 真昼の暗黒(1956)
  • 米(1957)
  • 楢山節考(1958)
  • キクとイサム(1959)
1960年代
1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
2020年代

リメイク

1957年版

  • 東芝日曜劇場KR)で、1957年4月14日、21:00〜22:00[1]に『限りなき前進』のタイトルのまま、リメイク放送している。小杉勇の主人公・徳丸を菅井一郎が、轟夕起子の文子役を武藤礼子が、江川宇礼雄の北役を木村功がそれぞれ演じている。クレジットでは原作=小津安二郎、オリジナルシナリオ=八木保太郎の名前はあるが、内田吐夢の名前は見当たらない。

出演

スタッフ

  • 脚本:八木保太郎
  • 演出:石川甫
  • 制作:KR(現・TBSテレビ)

1962年版

出演

スタッフ

1976年版

  • 1976年2月7日、20:00〜21:25[3]NHK土曜ドラマ枠「懐かしの名作シリーズ」の一作として、同じタイトルでリメイク版が放送されている。こちらは脚本を山内久・立原りゅうが担当し、主役を船越英二、娘役を仁科明子が演じている。

出演

スタッフ

  • 脚本:山内久、立原りゅう
  • 演出:清水満
  • 制作: NHK

前後番組

TBS系 近鉄金曜劇場(1962年11月9日)
前番組 番組名 次番組
京洛の女
限りなき前進
裏町の女
土曜ドラマ
※ 特記がない限りは21時放送、「*」…20時放送。「★」…22時放送。
 
第1次(1975年 - 1984年)
1975年 - 1979年

遠い接近 - 中央流沙 - 愛の断層 - 事故 - この町の人 - 愛染かつら - 生ける人形 - 浪華悲歌 - 限りなき前進 - 男たちの旅路(第1部) - 花に棲む - 寺島町奇譚 - 紅い花 - 閃光の遺産 - 高層の死角 - 轢き逃げ - 暗い落日 - 男たちの旅路(第2部) - 堂々たる打算 - およね平吉時穴道行 - 終りなき負債 - もしも・あの時 - 棲息分布 - 最後の自画像 - 依頼人 - たずね人 - 男たちの旅路(第3部) - 虹の花 - 優しい時代 - 兄とその妹 - 出来ごころ - 人情紙風船 - 十字路 第一部 - 天城越え - 虚飾の花園 - 一年半待て - 火の記憶 - 十字路 第二部 - 阿修羅のごとく - 死にたがる子 - 血痕追跡 - 四角な船 - 失楽園'79 - 大阪親不孝通り - 大阪発-あした - 男たちの旅路(第4部) - 素直な戦士たち

1980年 - 1984年

阿修羅のごとく パート2 - 離婚 - 天才画の女 - 空白の900分―国鉄総裁怪死事件― - 暁は寒かった―誰かが母を殺した日― - さらばきらめきの日々 - 魂の夏 - 蛇蝎のごとく - わが青春のブルース - 踊る - 君はまだ歌っているか - タクシー・サンバ - 価格破壊 - けものみち - 大阪ドン・キホーテ - 横浜物語 - 遠雷と怒涛と - 噂になった女たち - 私の父の反乱 - 希望 - 翔べ!南十字星号 - 追跡 - 白き抗争 - 欲望 - 日だまり - 波の塔 - 話すことはない - 華族の女 - わたしの名は女です - 青春スクランブル

 
第2次(1988年 - 1998年)
1988年 - 1989年

結婚する手続き - カイワレ族の戦い - 十九歳 - ときめき宣言 - 翔べひよっ子 - 夕陽をあびて - 兄弟 〜あにおとうと〜

1990年 - 1994年

別の愛 - 家族の値段 - 恋愛模様 - 理想の男性 - 新十津川物語 明治編 - チロルの挽歌 - - 新十津川物語 大正編 - 新・王将 - オバサンなんて呼ばないで! - 恐怖の航海 - 潮風のサラ - 春むかし - 新十津川物語 昭和編 - 愛を忘れないで - 流れてやまず - 地球をダメにする50のかんたんな方法 - パパ嘘だと言って - 推定有罪 - とおせんぼ通り - 欅の家 - 大草原に還る日 - 私が愛したウルトラセブン - 消えた金塊ブリンクス・マット強奪事件 - パパとアリスの奮戦記 - ミス・ローズ・ホワイトの秘密 - 春の一族 - 系列(パート1) - オバサン、咲いた! - 三十三年目の台風 - がんばらんば 〜平成の島原大変〜 - 勇士たちの帰郷 - 街角 - エトロフ遥かなり - 愛が聞こえます - 聞こえるかい心の歌が - 五右衛門 - 銀行 男たちのサバイバル - 否認 - 幸福の条件 - 米田家の行方 - 北山一平 アイラブ人生 - 黄昏の甘い恋歌ときめき御用達・おぼっちゃまは元気印! - 系列(パート2) - 秋の一族 - 和菓子の味 - 妻よ

1995年 - 1998年

もうひとつの家族 - ゼロの焦点 - 放送記者物語 - 涙たたえて微笑せよ-明治の息子・島田清次郎 - 鏡の調書天使が街にやってきた - 家族旅行 - 天上の青 - 遠い国からの殺人者 - 八月の叫び - 刑事 蛇に横切られる - 新宿鮫 〜無間人形〜 - メナムは眠らず - されど、わが愛 - 天空に夢輝き 〜手塚治虫の夏休み〜 - やらまいか! - 夏の一族 - ストックホルムの密使 - 百年の男鯉のように百年生きろ - 一日三回食後に服用・よひんびん物語 - 大地の子 - 最後の弾丸 - 官僚たちの夏 - ランタナの花の咲く頃に - 水辺の男 - ぜいたくな家族 - 照柿 - 病院 - ちいさな大冒険 - 我等の放課後 - 秋の選択 - 憲法はまだか - 女にも七人の敵 - 新宿鮫 〜屍蘭〜 - おごるな上司! - うどんとビデオ - いのちの事件簿 〜福祉の最前線でケースワーカーは今〜 - 風のねがい - もうひとつの心臓 - 女たちの帝国 - 唄を忘れたカナリヤは… - 生前予約〜現代葬儀事情 - スズキさんの休息と遍歴 - 熱の島で〜ヒートアイランド東京 - 極楽遊園地 - 流通戦争 - 新宿鮫 〜毒猿〜 - 黄昏流星群〜恋をもう一度 - 風になれ鳥になれ - ラスト・イニング

 
第3次(2005年 - 2011年)
2005年 - 2009年

クライマーズ・ハイ - 氷壁 - 繋がれた明日 - マチベン - ディロン〜運命の犬 - 人生はフルコース - 新・人間交差点 - クライマーズ・ハイ(再) - 魂萌え! - ウォーカーズ〜迷子の大人たち - ディロン〜クリスマスの約束 - ちゅらさん4 - スロースタート - ハゲタカ - 病院のチカラ〜星空ホスピタル〜 - こんにちは、母さん - 新マチベン 〜オトナの出番〜 - 勉強していたい! - ジャッジ 〜島の裁判官奮闘記〜 - ひとがた流し - フルスイング - 刑事の現場 - トップセールス - 監査法人 - 上海タイフーン - ジャッジII 島の裁判官 奮闘記 - 刑事の現場(再) - 遥かなる絆 - 風に舞いあがるビニールシート - リミット -刑事の現場2- - 再生の町 - チャレンジド - 外事警察

2010年 - 2011年

君たちに明日はない - チェイス〜国税査察官〜 - 鉄の骨 - チャンス - TAROの塔 - チャレンジド 〜卒業〜

 
第4次(2013年 - )
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
2019年

母、帰る〜AIの遺言〜 - みかづき - 浮世の画家 - デジタル・タトゥー - サギデカ - 少年寅次郎 - みをつくし料理帖スペシャル

2020年

心の傷を癒すということ - 三浦部長、本日付けで女性になります。 - 路〜台湾エクスプレス〜 - 天使にリクエストを〜人生最後の願い〜 - ノースライト

2021年
2022年
2023年
2024年
 
土曜ドラマスペシャル(2011年 - 2013年、2017年 - 2019年)
2011年

神様の女房 - 使命と魂のリミット - 蝶々さん〜最後の武士の娘〜 - 真珠湾からの帰還

2012年
2013年

メイドインジャパン - 火怨・北の英雄 アテルイ伝(BSプレミアムの再放送)

2017年
2018年

炎上弁護人

2019年

ベトナムのひかり〜ボクが無償医療を始めた理由〜

カテゴリ カテゴリ

脚注

注釈

  1. ^ 朝日放送 (ABC) は、放送当時はTBSJNN)系列であった。

出典

  1. ^ “限りなき前進”. テレビドラマデータベース. 2023年10月8日閲覧。
  2. ^ “限りなき前進”. テレビドラマデータベース. 2023年10月8日閲覧。
  3. ^ “懐かしの名作シリーズ 限りなき前進”. テレビドラマデータベース. 2023年10月8日閲覧。

関連書籍

  • 鈴木尚之 『私説内田吐夢伝』 岩波書店 ISBN 4006020139 C0174
  • 内田吐夢 『内田吐夢~映画監督五十年』(人間の記録) 日本図書センター ISBN 4820557653

関連項目