トンボー地域

トンボー地域
Tombaugh Regio
トンボー地域の拡大図(ニュー・ホライズンズ撮影)
種類 地域
天体 冥王星
場所 赤道付近
直径 1,590 km (990 mi)[1]
名の由来 クライド・トンボー

トンボー地域(トンボーちいき)、または トンボー・レジオTombaugh Regio [ˈtɒmb ˈrɛi.][note 1])は、冥王星の表面にある巨大な高アルベド地形(レジオ)。冥王星の明るい地形的特徴としては最大であり、かつハート形に見えることから、The Heart の愛称でも知られている[2][3][4][5][6][7]。トンボー地域は赤道のちょうど北側に位置しており、南西でクトゥルフ地域、南東でクラン・マクラ(英語版)という2つの大きな低アルベド地形と繋がっている[8]。ハートの西側部分は、スプートニク平原(英語版)と名付けられた幅1000 kmの窒素などのに覆われた平野が広がっている[9][10]。東側部分には明るい高地が広がっているが、この高地にはスプートニク平原から大気によって運ばれた窒素がとなって降り積もり表面を覆っていると考えられている。降り積もった固体窒素は、氷河となってスプートニク平原に還元される。トンボー地域の名称は、冥王星の発見者クライド・トンボーにちなんで名付けられた。

詳細

トンボー地域は、巨大で明るい色をした、全長1,590 km (990 mi) にもわたる地域である[1]。ハートの西と東では地形的に大きな差異がある。西側はスプートニク平原(英語版)と呼ばれており、東側よりも平坦で、色も若干異なっている。[11] 観測当初、この平原は巨大な衝突クレーターが窒素の雪で覆われたものではないかと考えられていた。また地域内の明るい点も最初は山の山頂ではないかと言われていた。[12] しかし2015年7月15日に公開された写真には、標高3,400 m (11,000 ft)の水の氷の山脈が映し出されており、これによりこの地域はクレーターによるものではないことが明らかになった[13]。続く観測データではスプートニク平原の中央部は窒素一酸化炭素メタンの氷に富んでおり、また平原の外縁部に近い地域では氷河のような氷の流れが存在しており、さらにクトゥルフ地域の東端では暗い物質の上を明るい物質が覆っていることも明らかになった[9]。スプートニク平原の表面は多角形の対流セル(英語版)に分割される[10]。平原の年齢は1000万年未満とみられており、これは冥王星が地質学的に活発な状態にあることを示している[14]

トンボー地域はニュー・ホライズンズ探査機が冥王星に到達する60年も前から、冥王星の明るい地域として識別されていたが、地球からの観測では十分な解像度を得ることはできなかった。60年の間、トンボー地域はうっすらとした明るさの変化として観測されていた。[15]

名称

トンボー地域は、2015年ニュー・ホライズンズ探査機が冥王星到着直前にセーフモードから復旧し、その後に送られた最初の冥王星の写真で初めて識別された。NASAは当初その形から、ハートとして言及した[16]。7月15日になり、この地域はニュー・ホライズンズチームにより、冥王星の発見者クライド・トンボーにあやかりトンボー地域(トンボー・レジオ)と命名された。レジオ (regio) はラテン語で地域 (region) の意味である。[17] トンボー地域が正式な地名となるには国際天文学連合 (IAU) による承認が必要だが、IAUの惑星系命名ワーキンググループの議長Rita Schulzは「この名称はすぐに採用可能であり、私たちはそれを事前に議論してきた」と述べている[18]

一部の人々は、トンボー地域はディズニーキャラクターのプルート(冥王星に因んで名づけられた)に似ているとコメントし[19][20][21]ウォルト・ディズニー・カンパニーもこの話題を取り上げた短い動画を公開した[19][22]

画像

  • 2010年にハッブル宇宙望遠鏡の観測データから生成された冥王星の表面。この時点では命名も地形の識別も行われていなかった。トンボー地域の明るさの違いが判別できる。
    2010年にハッブル宇宙望遠鏡の観測データから生成された冥王星の表面。この時点では命名も地形の識別も行われていなかった。トンボー地域の明るさの違いが判別できる。
  • フライバイ直前の疑似色画像。トンボー地域のハートの上側が判別できる(2015年7月13日)
    フライバイ直前の疑似色画像。トンボー地域のハートの上側が判別できる(2015年7月13日)
  • 冥王星における一酸化炭素の氷の分布図(緑)。スプートニク平原(英語版)に集中しているのが分かる(2015年7月14日)
    冥王星における一酸化炭素の氷の分布図(緑)。スプートニク平原(英語版)に集中しているのが分かる(2015年7月14日)
  • トンボー地域のハートの左側の合成写真。若いスプートニク平原(英語版)とともに、南のノルゲイ山脈(英語版)、南西のヒラリー山脈、それに暗く古いクトゥルフ地域の東端が写っている。
    トンボー地域のハートの左側の合成写真。若いスプートニク平原(英語版)とともに、南のノルゲイ山脈(英語版)、南西のヒラリー山脈、それに暗く古いクトゥルフ地域の東端が写っている。
  • 冥王星の半球。ヒラリー山脈とノルゲイ山脈(英語版)が図示されている(2015年7月14日)
    冥王星の半球。ヒラリー山脈ノルゲイ山脈(英語版)が図示されている(2015年7月14日)
  • ヒラリー山脈とノルゲイ山脈(英語版)(2015年7月14日)[23]
    ヒラリー山脈ノルゲイ山脈(英語版)(2015年7月14日)[23]
  • スプートニク平原の窒素の氷の多角形の対流セル(英語版)が確認できる拡大画像(2015年7月14日)
    スプートニク平原の窒素の氷の多角形の対流セル(英語版)が確認できる拡大画像(2015年7月14日)
  • 東側の高地から西側のスプートニク平原への窒素の氷の氷河を示した画像。赤い矢印が平原に流れ込む谷の幅を、青い矢印は平原での流れを示す。
    東側の高地から西側のスプートニク平原への窒素の氷の氷河を示した画像。赤い矢印が平原に流れ込む谷の幅を、青い矢印は平原での流れを示す。
  • 冥王星の地形図(2015年7月14日)
    冥王星の地形図(2015年7月14日)
  • 冥王星の経度と緯度を示した地図。トンボー地域は地図の中央に突き出した部分である。
    冥王星の経度と緯度を示した地図。トンボー地域は地図の中央に突き出した部分である。

脚注

  1. ^ または [ˈtɒmbɔː]

参考文献

  1. ^ a b “New map of Pluto reveals a ‘whale’ and a ‘donut’”. The Washington Post (2015年7月8日). 2015年7月14日閲覧。
  2. ^ New data reveals that Pluto's heart is broken. Washington Post. 14 July 2015. Retrieved 15 July 2015.
  3. ^ Coming today: a close-up of Pluto's heart. New York Times. 15 July 2015. Retrieved 15 July 2015.
  4. ^ New Horizons spacecraft displays Pluto's big heart. NASA.gov. 14 July 2015. Retrieved 15 July 2015.
  5. ^ “This is the first high resolution image of Pluto's surface”. The Verge (2015年7月15日). 2015年7月15日閲覧。
  6. ^ “Latest New Horizons Photo Shows Close-Up of Pluto's Young Mountains”. NBC News. Comcast (2015年7月15日). 2015年7月15日閲覧。
  7. ^ “New Horizons Reveals Ice Mountains on Pluto”. The New York Times (2015年7月15日). 2015年7月15日閲覧。
  8. ^ McKinnon, Mika. “Places on Pluto are Being Named for Your Darkest Imaginings”. 2015年7月23日閲覧。
  9. ^ a b “New Horizons Discovers Flowing Ices on Pluto”. NASA. 2015年7月25日閲覧。
  10. ^ a b Lakdawalla, Emily (2015年12月21日). “Pluto updates from AGU and DPS: Pretty pictures from a confusing world”. The Planetary Society. 2016年1月24日閲覧。
  11. ^ “New data reveals that Pluto’s heart is broken”. The Washington Post (2015年7月14日). 2015年7月14日閲覧。
  12. ^ “New Horizons reaches Pluto, sees complex terrain with ‘great mounds’”. The Washington Post (2015年7月14日). 2015年7月14日閲覧。
  13. ^ “The first insanely close-up photos of Pluto reveal water on its surface”. Business Insider (2015年7月15日). 2015年7月15日閲覧。
  14. ^ Marchis, F.; Trilling, D. E. (2016-01-20). “The Surface Age of Sputnik Planum, Pluto, Must Be Less than 10 Million Years”. PLOS ONE 11 (1): e0147386. arXiv:1601.02833. Bibcode: 2016PLoSO..1147386T. doi:10.1371/journal.pone.0147386. 
  15. ^ “Mission to Pluto: Live coverage: Sitting and speculating”. Science News (2015年7月14日). 2015年7月15日閲覧。
  16. ^ “NASA’s New Horizons: A “Heart” from Pluto as Flyby Begins”. NASA (2015年7月8日). 2015年7月15日閲覧。
  17. ^ Kelly Beatty (2015年). “Pluto and Charon Dazzle with Diversity”. Popular Mechanics. 2015年7月16日閲覧。
  18. ^ Boyle, Alan (2015年8月25日). “Pluto, we have a problem: Some geographical names may not fly on official maps”. GeekWire. 2015年9月14日閲覧。
  19. ^ a b Westfall, Mike (2015年7月14日). “Does Pluto's bright spot look more like a heart or the Disney dog?”. Bay News 9. 2015年7月16日閲覧。
  20. ^ Newcomb, Alyssa (2015年7月14日). “New Horizons Space Probe: Pluto Gets the Meme Treatment”. ABC News. 2015年7月16日閲覧。
  21. ^ “The best Pluto memes. Well done, internet”. BBC (2015年7月15日). 2015年7月16日閲覧。
  22. ^ Disney [@Disney] (2015年7月14日). "Oh, boy! There's no pup more stellar than Pluto". X(旧Twitter)より2015年7月16日閲覧
  23. ^ Gipson, Lillian (2015年7月24日). “New Horizons Discovers Flowing Ices on Pluto”. NASA. 2015年7月24日閲覧。

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、トンボー地域に関連するカテゴリがあります。
特徴
ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星
ハッブル宇宙望遠鏡のFOC(微小物体撮像カメラ)が撮影した冥王星とカロン
発見
探査
2006年までの分類
2006年以降の分類
冥王星における日面通過
関連項目
カテゴリ