胡威

胡 威(こ い、? - 太康元年(280年))は、中国三国時代の魏から西晋にかけての政治家・武将。字は伯虎。一名に。揚州国寿春県の人。祖父は胡敏、父は胡質、弟に胡熊、子に胡奕。

生涯

若くして志を磨き、青龍4年(236年)、父が荊州刺史に就任すると親への孝行のため、(家が貧しくて車馬や奴僕が無く)一人でロバに乗って洛陽から治所に向かった。10日ほど厩舎で泊った後、別れる際に父から餞別に絹一匹を与えられた。清廉な父からの贈られた絹を訝しんで尋ねると「これは俸禄の余りであり、旅の費用にせよ」と答えたため受け取って帰った。この時、胡質配下の帳下都督が先んじて休暇を申請しており、帰り旅で(面識のない振りをして)胡威に近づきをあれこれと世話をした。道中で不審に思った胡威は、誘導して問い質して都督と分かると、絹を与えて送り返した。その後、他の文書のついでにこの件を父に告げると胡質は都督を杖刑100叩きにして、官名から除外した。胡質親子の清く慎ましい様はこの通りで、この一件があって名声は知れ渡った[1]

成長すると侍御史に任ぜられ、南郷、安豊太守などを歴任し、徐州刺史に昇進した[2]。任地では政務につとめ、教化は大いに広まった。甘露2年(257年)、諸葛誕が淮南で決起すると、兗州刺史・州泰とともに石苞の指揮下に入り、遊軍として外患に備えた(石苞はその後、朱異を迎撃して破っている)[3]

後に入朝した際に武帝・司馬炎から「貴方と父(胡質)ではどちらが清らかか」と問われると「父には及びません」と答えた。また具体的な部分を聞かれると「父の清廉さは(行いを)人に知られることを恐れ、(一方で)私は人に知ってもらえないことを恐れます」と答えた。武帝はその率直で慎ましい発言に感心した。胡威はたびたび昇進して監豫州諸軍事・右将軍・豫州刺史となり、再び入朝して泰始10年(274年)には尚書・奉車都尉・平春侯として喪礼の議論に名がみえる。また、(278年杜預の上疏に先立ち)淮北平原における水害の原因は、魏代に乱造された陂池(灌漑施設)であるため、これを破壊するよう求めた。

胡威はかつて、時の政治の寛容すぎる点を諫めると、帝は「尚書郎以下に目溢しはしていない」と反論したため「低位の者の話ではなく、私のような高官を罰しなければ下々の教化はなりません」と主張した。その後は、前将軍・監青州諸軍事・青州刺史に任じられた。太康元年(280年)に西晋による天下統一が果たされ、その10月に在任中に死去した。帝からは持節、都督青州諸軍事、鎮東将軍などを追贈され、諡はといった[4]

脚注

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  1. ^ 『世説新語』で王導が、『全唐詩』でも数編、清廉さの象徴として胡威の名が散見される。
  2. ^ 『三国志』胡質伝では咸熙年間(264-265年)とする
  3. ^ 晋書』石苞伝に「徐州刺史胡質」と見えるが、胡質は故人であり、胡烈は泰山太守で、官暦に徐州刺史がある胡奮も当時は大将軍司馬であるため「胡威」の誤記とした。しかし、先の『三国志』の記述と矛盾する。あるいは「行徐州刺史事」の略か
  4. ^ 『三国志』胡質伝では安定で死去したとするが、活動場所が大きく異なるため、『晋書』の記述を取った。

参考文献

『晋書』 『三国志』胡質伝および『晋陽秋』

陳寿撰 『三国志』 に立伝されている人物および四夷
魏志
(魏書)
巻1 武帝紀
巻2 文帝紀
巻3 明帝紀
巻4 三少帝紀
巻5 后妃伝
巻6 董二袁劉伝
巻7 呂布臧洪伝
巻8 二公孫陶四張伝
巻9 諸夏侯曹伝
巻10 荀彧荀攸賈詡伝
巻11 袁張涼国田王邴管伝
巻12 崔毛徐何邢鮑司馬伝
巻13 鍾繇華歆王朗伝
巻14 程郭董劉蔣劉伝
巻15 劉司馬梁張温賈伝
巻16 任蘇杜鄭倉伝
巻17 張楽于張徐伝
巻18 二李臧文呂許典二龐
閻伝
巻19 任城陳蕭王伝
巻20 武文世王公伝
巻21 王衛二劉傅伝
巻22 桓二陳徐衛盧伝
巻23 和常楊杜趙裴伝
巻24 韓崔高孫王伝
巻25 辛毗楊阜高堂隆伝
巻26 満田牽郭伝
巻27 徐胡二王伝
巻28 王毌丘諸葛鄧鍾伝
巻29 方技伝
巻30 烏丸鮮卑東夷伝

(蜀書)
巻31 劉二牧伝
巻32 先主伝
巻33 後主伝
巻34 二主妃子伝
巻35 諸葛亮伝
巻36 関張馬黄趙伝
巻37 龐統法正伝
巻38 許糜孫簡伊秦伝
巻39 董劉馬陳董呂伝
巻40 劉彭廖李劉魏楊伝
巻41 霍王向張楊費伝
巻42 杜周杜許孟来尹李譙
郤伝
巻43 黄李呂馬王張伝
巻44 蔣琬費禕姜維伝
巻45 鄧張宗楊伝
呉志
(呉書)
巻46 孫破虜討逆伝
巻47 呉主伝
巻48 三嗣主伝
巻49 劉繇太史慈士燮伝
巻50 妃嬪伝
巻51 宗室伝
巻52 張顧諸葛歩伝
巻53 張厳程闞薛伝
巻54 周瑜魯粛呂蒙伝
巻55 程黄韓蔣周陳董甘淩
徐潘丁伝
巻56 朱治朱然呂範朱桓伝
巻57 虞陸張駱陸吾朱伝
巻58 陸遜伝
巻59 呉主五子伝
巻60 賀全呂周鍾離伝
巻61 潘濬陸凱伝
巻62 是儀胡綜伝
巻63 呉範劉惇趙達伝
巻64 諸葛滕二孫濮陽伝
巻65 王楼賀韋華伝